事業主が資金調達をしようと思った際、一番メジャーなのは「銀行融資」なのではないでしょうか。銀行融資は、高額な資金を調達できる可能性が高い反面、厳しい審査を通過しなければなりません。対し、近年新しい資金調達方法として着目を集めている「ファクタリング」は、非常に審査が柔軟です。同じ「資金調達」でも、銀行融資とファクタリングでは特徴や利用すべき場面が大きく異なるのです。
この記事では、銀行融資とファクタリングについて、それぞれの特徴と使い分け方を徹底解説します。
ファクタリングは、事業主が保有している売掛債権を、ファクタリング会社へ譲渡・売却することで、売掛金の早期現金化ができるサービスです。決済期日前の売掛金を現金化することで資金調達ができる方法であり、「売掛金の前払いを受けられるサービス」と考えると、わかりやすいかもしれません。
資金調達というと「借入」による方法が一般的ですが、借入を受けられない事業主も少なくはありません。そこで、「借りない資金調達方法」であるファクタリングが誕生しました。ここからは、そんなファクタリングの特徴を解説します。
ファクタリングの特徴として、以下の5つが挙げられます。
ファクタリングは、最短即日〜1週間程度で資金調達が可能であり、スピード感をもった取引を得意とします。
と言うのも、ファクタリングはあくまで「売掛金の先払い」であるため。近しい将来に入金される予定のある売掛金を、ファクタリング会社が早期に現金化しているだけです。そのため、利用者の経済状況などを詳しく調べる必要がありません。確実に存在している売掛債権なのか、売掛金を回収できる可能性は高いのか、この2点を調査するだけなので、審査に時間がかかりません。
また、売掛先が関与しない2社間ファクタリングであれば、利用者とファクタリング会社間だけで契約が締結できます。手続きに時間がかからないため、最短即日〜3日程度と、非常にスピーディな資金調達にも期待できるでしょう。ただし、売掛先が契約に関与する3社間ファクタリングの場合は、売掛先とも契約を結ばなければなりません。即日での資金調達は不可能ですが、それでも最短3日〜1週間程度で資金調達は完了します。
ファクタリングの審査は、非常に柔軟です。
ファクタリングの審査で最重要視されるのは「売掛先の信用度」です。売掛先がきちんと売掛金を支払うことができるのか、売掛先の経営状況が悪くないのか、この2点を確認できれば、ほぼ審査に落ちることはありません。つまり、利用者の信用度は審査に大きな影響を与えないのです。利用者に赤字決算や税金滞納などの問題があっても、ファクタリングは利用できる可能性が高いでしょう。
ただし、2社間ファクタリングは3社間ファクタリングと比較すると、やや審査が厳しい傾向にあります。これは、2社間ファクタリングに、売掛先が関与しないことが関わっています。2社間ファクタリングでは、実際の決済期日に売掛先から利用者へ売掛金が支払われ、その後利用者がファクタリング会社へ売掛金の返還をしなければなりません。一旦、利用者へ売掛金が支払われる仕組み上、売掛金の持ち逃げリスクがゼロとは言えません。そのため、2社間ファクタリングでは、利用者の経済状況が審査に全く関与しない、というわけではないのです。
ファクタリングで得た資金は、負債になりません。
と言うのも、ファクタリングはあくまで「売掛債権の譲渡・売却」による資金調達方法だから。お金を借りるのではなく、先払いをしてもらうだけなので、負債を抱えることがありません。実際の決済期日に一括返還するだけで取引が完了するため、長期的な返済計画も不要です。さらに、負債を抱えることがないため、担保や保証人も必要ありません。
また、ファクタリングは、負債を抱えずに資金を増やすことができるため、オフバランス効果にも期待できます。ROAや自己資本比率などの指標を高めることも可能であるため、企業評価の向上にも役立つでしょう。
ファクタリングでは、保有している売掛債権の額面以上の資金調達はできません。
なぜなら、ファクタリングでは、あくまで売掛金の早期現金化ができるだけだから。売掛金の先払いを受けているだけなので、売掛債権の額面以上の資金調達は絶対にできません。
また、ファクタリングでは、70%〜90%の掛け目が設定されることが多く、売掛債権全額が買取対象になることは少ないです。さらに、利用時には買取額の1%〜30%の手数料が発生します。つまり、買取額から手数料を差し引いた額が早期現金化できる額ということになります。そのため、売掛債権の額面よりも、早期現金化できる額が目減りすることは避けられません。とは言え、複数の売掛債権を合わせて売却することも可能なので、資金調達希望額が高い場合は、複数の売掛債権を合算して売却するのも良いでしょう。
ファクタリングで譲渡・売却した売掛債権が不履行になった場合でも、利用者は弁済する必要がありません。
と言うのも、ファクタリングは「償還請求権のない契約」が原則だから。ファクタリング会社は、売掛金の未回収リスクも含めて売掛債権の買取りをしているのです。つまり、ファクタリングを利用して売掛金を早期現金化してしまえば、売掛先の倒産や経営難に怯える必要がなくなる、ということになります。売掛金を確実に回収できるため、ファクタリングは有用でしょう。
銀行融資は、事業主の資金調達方法として最も一般的な方法です。
銀行融資を受けられれば、低金利で多額の資金を調達できる可能性が高いです。しかし、銀行融資を受けるためには、相応の審査に通過しなければなりません。そのため、中小企業や小規模事業主などでは、利用できないことも珍しくはないのです。
ここでは、そんな銀行融資の特徴を解説します。
銀行融資の特徴として、以下の4つが挙げられます。
銀行融資の審査は、非常に厳格です。
と言うのも、銀行融資は「借入」による資金調達方法だから。銀行融資の審査では、利用者に返済能力があるのか、将来性が見込める事業なのかなど「利用者の信用度」を詳しく調査する必要があります。そのため、10種類を超える必要書類を提出したり、複数回の面談行ったりしなければなりません。
審査の結果、返済能力がないと判断されれば銀行融資を受けることはできません。利用者に赤字決算や税金滞納がある場合、審査に通ることはまずないでしょう。また、スタートアップ企業や中小企業など、創業年数や企業実績が少ない場合にも、審査を通過するのは難しいかもしれません。
銀行融資は、低金利かつ多額の資金調達に期待できます。
借入による資金調達方法はいくつかありますが、その中でも銀行融資は最も低金利で利用できます。通常、借入による資金調達をした場合、借りた金額と年数に応じた利息が発生します。そのため、借入額に利息を上乗せして返済しなければなりません。
ビジネスローンなど高金利商品の場合、20%近い金利設定も珍しくはなく、利息だけで多額の返済額が発生するでしょう。銀行融資は、1%〜5%程度、高くても10%未満の金利で借入できるため、返済額が増えすぎるという心配はありません。
銀行融資は、融資実行までに1ヶ月〜2ヶ月程度の期間を要します。
と言うのも、銀行融資の審査には時間がかかるから。利用者の返済能力を詳しく調査しなければならないため、数多くの必要書類や複数回の面談を行う必要があります。確認作業や審査には相応の時間がかかるため、スピード感をもった取引を得意としません。
銀行融資を受けられれば、企業としての格がつきます。
と言うのも、銀行融資はなかなか簡単に受けられるものではないから。上記でも解説したように、銀行融資を受けるためには厳格な審査に通過しなければなりません。「厳格な審査に通過できた企業=経営が安定している企業」と認識されやすく、企業としては格がつくことに期待できるでしょう。
事業主の資金調達方法である「ファクタリング」と「銀行融資」。一言で資金調達方法と言っても、双方は全く違う性質を持ちます。自社のニーズに適した資金調達方法を選ぶためにも、ファクタリングと銀行融資の違いをしっかりと把握しておくべきです。
ファクタリングと銀行融資の違いは、以下の10個です。
ファクタリングと銀行融資では、審査基準が大きく異なります。
・ファクタリング:売掛先の信用度を重視
・銀行融資:利用者の信用度を重視
ファクタリングの審査では「売掛先の信用度」つまり、売掛先が売掛金を支払えるかどうかが最も重要になります。そのため、審査では、過去の取引における支払い遅れや未払いの有無、売掛先の経営状況などが確認されます。利用者の信用度はさほど重要ではないため、利用者に赤字決算や税金滞納などの金銭問題があっても、問題ありません。
対し、銀行融資の審査では「利用者の信用度」つまり、利用者に返済能力がきちんとあるかどうかが重要となります。決算報告書や資金繰り表、事業計画書など多くの書類や、複数回の面談から、事業の将来性や経済状況を判断することになります。経営が傾いていたり、資金繰りがうまくいっていなかったりする状況では、審査に落ちることもあるでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、資金調達速度にも大きな違いがあります。
・ファクタリング:最短即日〜1週間程度
・銀行融資:1ヶ月〜2ヶ月程度
ファクタリングは、審査や手続きに時間を要さないため、最短即日〜1週間程度で資金調達が完了します。特に、売掛先が介入しない2社間ファクタリングであれば、3日以内で資金調達を終えられるでしょう。売掛先が関与する3社間ファクタリングであっても、3日〜1週間程度で資金調達が完了するため、スピード感を持った取引が可能です。
対し、銀行融資は、審査や手続きに多くの時間を要します。書類審査だけでなく、複数回対面での面談を行う必要もあるため、相応の時間消費は避けられません。融資実行までには1ヶ月〜2ヶ月程度かかるため、スピード感を持った資金調達には向きません。
ファクタリングと銀行融資では、資金調達可能額にも大きな違いがあります。
・ファクタリング:売掛債権の額面未満(買取額−手数料)
・銀行融資:多額の資金調達に期待できる
ファクタリングは、あくまで「売掛金の早期現金化」ができるだけです。そのため、売掛債権の額面以上の資金調達はできません。さらに、利用時には掛け目や手数料が設定されるため、資金調達できる額は、売掛債権の額面よりも必ず少なくなります。
対し、銀行融資は、審査結果次第では高額融資にも期待できます。担保や保証人が用意できれば、その評価額によりさらに融資可能枠を広げることもできるでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、資金調達時に発生する費用にも違いがあります。
・ファクタリング:1%〜30%の手数料
・銀行融資:1%〜5%程度の金利
ファクタリングを利用する際には、2社間ファクタリングで10%〜30%、3社間ファクタリングで1%〜10%の手数料が発生します。ファクタリングの手数料は、売却する売掛債権の額に対して発生するものです。そのため、手数料だけで数十万円〜数百万円になることも珍しくありません。
対し、銀行融資では、融資額や返済期間に応じて1%〜5%程度の金利が発生します。年間で数%の金利なので、かなり少ない利息で資金調達できるでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、売掛先への通知の有無も異なります。
・ファクタリング:3社間ファクタリングのみ通知必須(2社間ファクタリングは通知不要)
・銀行融資:通知不要
ファクタリングには、売掛先への通知が必要な取引と不要な取引があり、利用者が自由に選択できます。2社間ファクタリングは、通知不要で利用できるため、売掛先へファクタリングを利用したことを知られることなく、資金調達ができます。しかし、3社間ファクタリングでは、売掛先から債権譲渡の承諾を得る必要があり、必ずファクタリング利用の通知をしなければなりません。3社間ファクタリングでは、資金調達をした旨を売掛先へ知られてしまうため、注意が必要かもしれません。
対し、銀行融資は、売掛先へ通知をする必要はありません。利用者だけで手続きが完結するため、資金調達したことが知られることも、売掛先へ迷惑をかけることもありません。
ファクタリングと銀行融資では、返済回数や返済期間にも大きな違いがあります。
・ファクタリング:本来の決済期日に一括返還
・銀行融資:数ヶ月〜10年程度で分割返済・一括返済を選べる
ファクタリングは、「決済期日に一括返還」が原則となります。ファクタリングは、借入ではないため、分割払いにすることはできません。先払いを受けた売掛金を回収でき次第、速やかにファクタリング会社へ返還しなければなりません。
対し、銀行融資は融資額や返済計画に応じて、数ヶ月〜10年程度かけて返済していくことになります。また、利用者の希望によって一括返済をすることも可能です。
ファクタリングと銀行融資では、追加の資金調達時の対応も異なります。
・ファクタリング:売掛債権があれば可能
・銀行融資:場合により追加融資できないこともある
ファクタリングは、一債権につき一取引となります。そのため、すでにファクタリングを利用していても、ほかの売掛債権を売却することで、新たな資金調達は可能です。追加で資金調達する際にも審査は必要ですが、比較的簡単に追加の資金調達ができるでしょう。
対し、銀行融資で追加融資するのは容易ではありません。追加融資を希望した際の借入状況や返済状況、会社の経営状況などにより、追加融資の可否が判断されます。融資枠の上限に近い状況では、追加融資を受けられないことも珍しくはないでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、会計処理の方法も異なります。
・ファクタリング:売掛金を普通預金、現金へ変更(手数料は損金)
・銀行融資:借入金
ファクタリングは、負債を抱えないため「借入金」の勘定科目を用いません。売掛金として計上されているものを、普通預金として処理するだけです。手数料は損金として経費計上できるため、税金対策にもなるでしょう。また、借入金を増やさずに現金を増やせるため、オフバランス効果にも期待できます。
対し、銀行融資で得た資金は「借入金」として処理します。キャッシュは増えますが、あくまで借入金であるため、自己資本比率は下がるでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、資金使途の制限の有無も異なります。
・ファクタリング:資金使途の制限なし
・銀行融資:資金使途の制限あり
ファクタリングで得た資金には、使途制限がありません。と言うのも、ファクタリングは売掛金を先払いしているだけだから。売掛金は自由に使用できるものであるため、ファクタリングで得た資金も利用者の自由に使うことができるのです。事業資金や投資資金に用いても良いですし、私的に使用しても問題ありません。
対し、銀行融資で得た資金には、使途制限があります。銀行融資の審査では、資金の使い道を申告しなければなりません。審査時に申告した使途以外で資金を使用したことが発覚した場合、違約金の支払いや早期返済を求められることもあるでしょう。
ファクタリングと銀行融資では、担保や保証人の有無も異なります。
・ファクタリング:担保や保証人は不要
・銀行融資:担保や保証人が必要
ファクタリングは、借入ではないため、原則担保や保証人は必要ありません。
対し、銀行融資では高確率で担保や保証人が必要となります。無担保融資という選択肢もありますが、無担保融資ではさらに審査は厳しく、かつ資金調達可能額も制限されることでしょう。
ここまで、ファクタリングと銀行融資の特徴や違いを解説しました。双方は全く異なる資金調達方法であり、どちらを利用すればいいのか悩んでしまう方もいるかもしれません。しかし、ファクタリングと銀行融資、どちらが良いと一概に言うこともできないのです。利用者の状況や資金調達ニーズに合わせて、選択すべき方法は違ってくるでしょう。
ここからは、ファクタリングがおすすめのケースと、銀行融資がおすすめのケース、それぞれ解説していきます。
ファクタリングがおすすめとなるケースは、以下のような状況の場合です。
・すぐに資金が必要な場合
・負債を増やさずに資金調達したい場合
・銀行融資を受けられない場合
ファクタリングの強みは「資金調達速度」と「利用ハードルの低さ」です。
機械の故障や買掛金の支払いなど、即日中に資金が必要な場合には、最短即日で資金調達ができる2社間ファクタリングがおすすめです。また、中小企業や小規模事業主など、銀行融資を受けられない場合でも、ファクタリングであれば資金調達できる可能性は高いでしょう。銀行融資の審査に通らなかった場合や銀行融資の審査が不安な場合には、ファクタリングで売掛金を現金に換えておくのも一つの手です。オフバランス効果により企業評価が高まり、銀行融資に有利に働くことにも期待できるでしょう。
売掛債権を保有していて、資金調達額が債権額内に収まる場合や、長期的ではなく単発的な資金が必要な状況では、ファクタリングが有用です。
銀行融資がおすすめとなるのは、以下のようなケースです。
・長期的かつ多額の資金調達が必要な場面
・低コストで資金調達したい場合
・資金調達まで時間的な猶予がある場合
銀行融資の強みはなんと言っても「金利の低さ」です。
必要書類の準備や複数回の面談の面倒さは否定できませんが、長期的かつ多額の資金が必要な場合に、銀行融資は非常に有用です。多額の資金を借入しても、低金利であるため多くの利息が生じることがありません。資金調達までに時間的猶予がある場合には、銀行融資を利用するのが良いでしょう。
ファクタリングも銀行融資も、事業主が利用できる資金調達方法です。しかし、ファクタリングと銀行融資は全く異なる性質を持ち、状況に応じて使い分けるのが良いでしょう。特に、中小企業や小規模事業主、スタートアップ企業など、銀行融資を受けづらい企業は、ファクタリングの利用をおすすめします。また、数日以内など緊急性の高い資金調達が必要な場面でも、ファクタリングは有用でしょう。