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ファクタリングは一般的に「売掛債権の譲渡・売却」として認知されていますが、診療報酬債権を対象とした「診療報酬ファクタリング」というサービスも存在します。診療報酬債権は、通常回収するまでに2~3ヶ月程度かかります。しかし、診療報酬ファクタリングを利用すれば、2~3ヶ月待たずとも現金の回収が可能です。
この記事では、診療報酬ファクタリングの仕組みやメリット・注意点を解説します。買取ファクタリングとの違いや、診療報酬ファクタリングが必要とされる理由も解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
診療報酬ファクタリングとは「診療報酬債権」を買取対象としたファクタリングであり、医療ファクタリングの一部です。診療報酬債権をファクタリング業者へ譲渡・売却することで、診療報酬債権を決済日前に現金化できます。
診療報酬ファクタリングの利用は、診療報酬債権を所有していることが必須条件。そのため、対象機関は病院やクリニックになります。
その他、医療ファクタリングには、介護報酬債権を対象とした「介護報酬ファクタリング」や調剤報酬債権を対象とした「調剤報酬ファクタリング」があります。
<医療ファクタリング>
・診療報酬ファクタリング - 病院やクリニックが対象
・介護報酬ファクタリング - 介護施設が対象
・調剤報酬ファクタリング - 調剤薬局が対象
診療報酬ファクタリングの仕組みを解説する前に、通常の診療報酬債権の支払いの流れを軽くおさらいしておきましょう。
通常、診療報酬債権は上記の流れで回収されます。
まず診療日に、患者から直接診療報酬の一部(70歳未満は自己負担3割)が支払われます。
ここで、残りの7割(公的負担)が診療報酬債権として発生。
月末に1ヶ月分の診療報酬債権を審査支払機関へ提出し、診療報酬の支払いを請求します。
審査支払機関である国民健康保険団体連合(国保蓮)や社会保険診療報酬支払基金(社保)は、診療報酬明細書(レセプト)をもとに審査を実施。
審査で問題なく処理されれば、約2~3ヶ月後に国保連や社保から公的負担額の支払いが行われる、という流れです。
医療機関は、国保連・社保へ公的負担の請求をしますが、一旦審査を行う仕組み上、支払いを受けるのは約2~3ヶ月後になるのが一般的です。請求しても、すぐには入金されない点に注意が必要でしょう。
上で説明した通り、診療報酬債権が発生してから債権を回収するまでには、約2~3ヶ月のタイムラグが生じます。診療報酬ファクタリングは、診療報酬債権の早期現金化が可能であり、このタイムラグを解消できます。診療報酬ファクタリングの流れは以下の通り。
診療報酬ファクタリングを利用する場合、ファクタリング業者への申し込みと同時に、売掛先である国保連や社保へファクタリング利用の通知が行われます。
ファクタリング契約締結後は、ファクタリング業者から医療機関へ診療報酬債権の8割が支払われます。
医療機関は、通常通りのタイミングで国保連や社保へレセプトを提出し、診療報酬の支払いを請求します。
レセプトの提出を受け、国保連や社保は診療報酬の審査を実施。審査により診療報酬額が確定した後に、国保連や社保からファクタリング業者へ診療報酬額が支払われます。
診療報酬の支払いを受けたファクタリング業者は、1回目に支払った額と手数料を差し引いた金額を医療機関へ支払い、取引は完了します。
なお、診療報酬ファクタリングは、3社間ファクタリングが原則です。国保連や社保から承諾を得られなければ利用できません。
上で解説したように、診療報酬ファクタリングは原則「3社間ファクタリング」で行われます。しかし、通常の買取ファクタリングで行う3社間ファクタリングとは、異なる点が2つあるため注意が必要です。
買取ファクタリングと診療報酬ファクタリングは、
・対象となる債権の種類
・買取金額が支払われるタイミングと回数
この2点に違いがあります。
買取ファクタリングが「売掛債権」を対象としているのに対し、診療報酬ファクタリングは「診療報酬債権」が対象となります。
また、買取ファクタリングは、ファクタリング契約締結後、1回で買取額の支払いを行います。対し、診療報酬ファクタリングは「支払いが2回に分けられている」点が特徴的。
これは、審査支払機関による審査を実施した後に、診療報酬額が確定することが関与しています。審査により診療報酬額が変動する可能性があるため、審査前の支払いは8割にとどめられているのです。審査により診療報酬額が確定した後に、残額から手数料を差し引いた金額が入金されるという仕組みとなります。この2点は買取ファクタリングとは異なるため、理解しておきましょう。
医療機関は通院歴が比較的長い方も多く、定期的な収入があり、経営が安定しているように見えるかもしれません。そのため「医療機関にファクタリングなんて必要なの?」「診療ファクタリングを利用する必要あるの?」と思う方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、診療報酬ファクタリングが利用されるワケを、医療機関の支出面と収入面の視点から解説します。
医療機関は、比較的支出の多い業界です。そのため、安定した収入があっても収支のバランス次第で、資金繰りが悪化することもあるのです。
医療機関に支出が多い理由として、以下の2つが挙げられます。
ひとつずつ詳細を見てみましょう。
医療機関は、固定費が高額になりやすいです。
入院患者を受け入れている病院の場合、24時間365日稼働しなければなりません。生命維持のために、常時医療機器をはずせない患者もいるでしょう。その間の光熱費はもちろん、数多くのメディカルスタッフへの給料も必要です。特に、医師の給料は数千万と高額。
また、薬剤購入費や医療機器のリース費、シーツ交換のためのリネン費なども生じます。どれも医療を提供する上で必要不可欠であり、節約できるものが少ないという特徴があります。
医療機関は、設備や人材育成のための投資費用が高額です。
医療技術や治療知見は、日々発展しています。患者へより良い治療を施すには、メディカルスタッフへの教育や最新の医療機器の導入は欠かせません。勉強会や研修への参加、医療機器の導入にも費用はかかるため、定期的な支出は避けられないでしょう。
支出が多くても収入が安定していれば、資金繰りは安定するでしょう。しかし、医療機関は収入の柱が多いとは言えず、資金繰り問題を抱えることも珍しくありません。
医療機関の収入の柱が少ない理由は、以下の2つです。
医療機関の収入源は、基本的に診療報酬債権のみです。
医療機関は、株式会社のように株式を発行したり、投資家から支援をしてもらったりすることができません。そのため、診療報酬債権が主な収入の柱となります。診療報酬債権は、ほぼ確実に回収できますが、回収までに約2~3ヶ月と比較的長い時間が必要です。その間にも固定費の支払いがあるため、資金繰りは逼迫しやすいでしょう。
医療機関は、病床数を簡単に増やせないという問題もあります。
収入源が診療報酬債権しかないのであれば、病床数を増やすことで収益を上げる施策を考えるかもしれません。しかし、病院が増床するためには、都道府県知事の許可が必要です。都道府県知事の許可は簡単に得られるものでもないため、簡単に増床することもできません。収入を増やそうにも増やせない、という課題もあるのです。
医療機関は、毎月の支出が高額になりやすいです。しかし、収入の柱が少なく、診療報酬債権の回収にも時間がかかるため、資金繰りに難渋する医療機関も少なくありません。
そこで、診療報酬債権の譲渡・売却である「診療報酬ファクタリング」を活用すれば、診療報酬債権の早期現金化が可能。診療報酬ファクタリングは、医療機関の資金繰り改善の糸口になると言えるでしょう。
診療報酬ファクタリングの手数料相場は、1%未満~2%程度です。
買取ファクタリングの場合、1~30%が手数料相場。買取ファクタリングと比較すると、診療報酬ファクタリングは非常に安い手数料で利用できます。
「ファクタリングの手数料は高い」と言われがちですが、診療報酬ファクタリングに限り、手数料は比較的格安となります。ここでは、なぜ診療報酬ファクタリングの手数料は安いのか、その理由を解説します。
診療報酬ファクタリングの手数料が安い理由は、以下の2つになります。
診療報酬ファクタリングの手数料が安い理由の一つに、診療報酬債権がほぼ確実に回収できるものであることが挙げられます。
ファクタリングは、原則償還請求権のない契約。売掛先(支払審査機関)が支払いをできなくなった場合、ファクタリング業者は利用者(医療機関)に支払いを求めることができません。そのため、ファクタリングでは、売掛先の信用度や経営状態が重要視されます。
診療報酬債権の支払いは国保連や社保など国の機関が行うため、信用度は非常に高いです。倒産リスクの心配も無用であれば、診療報酬の未払いの心配もありません。
ほぼ確実に診療報酬の回収ができるため、手数料も安くなっています。
診療報酬ファクタリングの手数料が安い理由は、診療報酬ファクタリングが原則3社間ファクタリングだからです。
3社間ファクタリングは、売掛先もファクタリング契約に参加するファクタリング方式。そのため、診療報酬の支払いは、支払審査機関からファクタリング業者へ直接行われます。医療機関を経由することなく、直接支払いを受けられるため、診療報酬の持ち逃げリスクがありません。ファクタリング業者にとって、リスクの低い取引となるため、手数料も安くなっているのです。
診療報酬ファクタリングには、以下の4つのメリットがあります。
診療報酬ファクタリングは、低手数料で診療報酬債権の早期現金化ができます。
通常、診療報酬債権の回収には約2~3ヶ月の時間を要するのが一般的。診療報酬債権を回収するまでの間にも、月々の支払いはしなければならず、資金繰りは逼迫しかねません。買取ファクタリングでは、早期現金化に1~30%の手数料が発生します。そのため、手数料分の損金が大きいという点が、デメリットになるでしょう。
しかし、診療報酬ファクタリングは、国保連や社保という信用度が高い機関との取引であり、手数料は1%未満~2%程度。手数料による損金を抑えながら、診療報酬債権の8割を最短3日~1週間程度で現金化できます。低手数料で早期現金化が可能であるため、医療機関の資金繰り改善に役立つでしょう。
診療報酬ファクタリングは、審査通過しやすいという特徴もあります。
買取ファクタリングも審査通過しやすい傾向にありますが、診療報酬ファクタリングはより利用ハードルは低いです。なぜなら、売掛先が公的機関だから。診療報酬債権をほぼ確実に回収できるため、ファクタリング業者も審査を落とすことはほぼありません。
開業して間もない医療機関や、経営が傾いている医療機関の場合、銀行融資に断られてしまうことも少なくありません。そのような状況でも、診療報酬ファクタリングなら利用できる可能性は高く、必要な資金を調達できるでしょう。
診療報酬ファクタリングは、融資審査へ悪影響を与えません。
診療報酬ファクタリングは、あくまで「診療報酬債権の譲渡・売却」であり、借入にはなりません。負債を抱えることなく資金を得ることができるため、オフバランス効果もあるのです。スリム化した賃借対照表は、非常に見栄えが良いもの。銀行融資の審査に悪影響を与えないだけでなく、審査に有利に働くことにも期待できるでしょう。
銀行融資などの借入を断られてしまった医療機関は、まず診療報酬ファクタリングで地盤を固めるのもおすすめです。
診療報酬ファクタリングを活用すれば、投資資金の準備も可能です。
診療報酬ファクタリングは、資金使途に制限がありません。早期現金化した資金は、医療機関の自由に活用できます。融資などの借入は資金使途の制限が厳しく、審査時に答えた使途以外で資金を使った場合、契約違反となります。違約金の支払いや早期返済を要求されることもあるため、注意が必要。
対し、診療報酬ファクタリングで早期現金化した資金は、何に使っても問題ありません。月々の支払いに充てるのも良いですし、投資資金に活用するのも良いでしょう。人材教育や最新機器の導入などに、早期から投資できるため、より良い医療の提供の一助になると言っても過言ではありません。
低手数料かつ迅速に、資金使途の制限がない資金を調達できる診療報酬ファクタリング。非常に有用であり、医療機関の資金繰り改善効果が期待できるサービスです。
しかし、診療報ファクタリングには、以下の2つの注意点も存在します。
注意点を知らないと、資金繰りを悪化させてしまう可能性もあるので、しっかりと把握しておきましょう。
診療報酬ファクタリングでは、債権額の全額を調達することはできません。
診療報酬ファクタリングで早期現金化できるのは、診療報酬債権額の8割。残りの2割は、通常通りの期日を迎えるまでは現金化できません。さらに、その2割から手数料が差し引かれるため、本来受け取れるはずの金額より必ず少なくなります。
全額が早期現金化できるわけではないので、注意しましょう。
診療報酬ファクタリングは、一度利用すると継続利用してしまうリスクがあります。
診療報酬ファクタリングは、あくまで「診療報酬の先払い」です。診療報酬債権の早期現金化ができますが、これは本来2~3ヶ月後に入る予定だった金額を先に受け取っているということ。つまり、診療報酬ファクタリングで受取を1ヶ月早めた場合、次回の受取は3~4ヶ月後になります。次回の決済日を待てずに、継続利用してしまうリスクがあるでしょう。
診療報酬ファクタリングの手数料は安いとは言え、過剰な継続利用は確実に資金繰りを悪化させます。診療報酬ファクタリングを利用すれば、資金繰りを改善できますが、これはあくまで一時的なものです。利用する際は計画的かつ、資金繰りを改善させた後の施策を考えておく必要があるでしょう。
この記事では、診療報酬ファクタリングの仕組みとメリット・注意点を解説しました。
診療報酬ファクタリングは、診療報酬債権を買取対象としたファクタリングです。買取ファクタリングとの違いは、支払いが2回に分けられていることであり、他は3社間ファクタリングとほぼ同様のサービス内容となります。
診療報酬ファクタリングを活用すれば、通常2~3ヶ月かかる診療報酬債権の回収を、最短3日~1週間程度に短縮できます。資金繰り改善や投資資金の準備などのメリットがある反面、頻回利用には注意も必要。診療報酬ファクタリングを利用する際には、計画的かつ、資金繰り改善後の施策を考えることが大事です。