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売掛債権の早期現金化ができる「ファクタリング」ですが、給料債権を買取対象とした「給料ファクタリング」と呼ばれるサービスも存在します。給料日前に現金を得られるため、非常に有用に思えるかもしれませんが、実は少し危険な取引でもあるのです。過去には逮捕事例もあり、金融庁からも注意喚起がされている取引であるため、おすすめはできません。この記事では、給料ファクタリングについて、その法的問題点と注意点を徹底解説します。
給料ファクタリングとは、個人の「給料債権」を買取業者に買い取ってもらうことで、給料日前に現金を受け取ることのできるサービスです。給料の前払いを受け、実際の給料日に支払われた給料を買取業者へ返済するという仕組みで周知されています。この仕組みが2社間ファクタリングに似ていることから「給料ファクタリング」と呼ばれていますが、給料ファクタリングは、純粋なファクタリングとは言えるものではありません。違法取引にもなりかねない危険な取引であるため、きちんと仕組みや法的根拠を理解しておく必要があるでしょう。
給料ファクタリングについて、金融庁は以下のような見解を示しています。
“「給与ファクタリング」などと称して、業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業に該当します。”
つまり、給料ファクタリングは「ファクタリング」を称していますが、その実質は「貸金業」ということになるのです。
給料ファクタリングは「給料債権を買い取り、給料の前払いを受けられる」ことから、ファクタリングと変わりないサービスと思われがちです。しかし、上記でも解説したように給料ファクタリングは「貸金業」に該当する取引となります。そのため、正しい仕組みの解釈としては、以下のようになるでしょう。
① 利用者は給料債権を「担保」として、買取業者と「消費賃借契約」を交わす
② 買取業者は利用者に金銭を「貸与」する
③ 利用者は勤務先から給料を受け取る
④ 利用者は買取業者へ金銭を「返済」する
給料ファクタリングは、ファクタリングではなく「給料日を返済期日とした短期借入」となるため、しっかりと理解しておきましょう。
給料ファクタリングが純粋な「(買取)ファクタリング」ではないことは、上記の解説からも理解できるかと思います。ここでは、給料ファクタリングと買取ファクタリングでは、なにが異なるのか、その詳細を解説していきます。
給料ファクタリングと買取ファクタリングでは、以下の点が異なります。
・取引対象
・契約内容
買取ファクタリングが「事業主」を取引対象にしているのに対し、給料ファクタリングでは「個人」が対象となります。本来のファクタリングでは、原則「事業主」が対象となるため「個人」との取引は行えません。この点だけを見ても、給料ファクタリングは純粋なファクタリングと言えないことは、理解できるでしょう。
さらには、買取ファクタリングが「債権の譲渡・売買契約」であるのに対し、給料ファクタリングでは「消費賃借契約」を結ぶこととなります。ファクタリングは「借りない資金調達」が大前提であり、負債を抱えることはありません。しかし、給料ファクタリングは消費賃借契約を交わすため、負債を抱える、つまり貸金業と言わざるを得ないのです。
個人を対象にした消費賃借契約には、カードローンや住宅ローンなどが該当します。これらの金融商品には違法性はありません。では、同じ消費賃借契約である給料ファクタリングには、なぜ違法性があるのでしょうか?ここでは、給料ファクタリングが違法取引とされる法的問題点を解説します。
給料ファクタリングの買取対象である給料債権は、「直接払い」が原則となります。
直接払いの原則とは「労働者に対する賃金は労働者に対してしか払うことができない」というもの。ファクタリングで給料債権の譲渡や売買を行うこと自体は、問題にはなりません。しかし、ここで問題となるのは、給料債権を労働者以外が受け取るという行為です。つまり、給料債権を買取業者が受け取ることになる給料ファクタリングは、直接払いの原則に反した行為とみなされるのです。
通常、ファクタリングでは、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2通りの契約方式から利用するファクタリング方式を選ぶことができます。しかし、給料ファクタリングは「2社間ファクタリング」しか選べません。と言うのも、3社間ファクタリングでは、勤務先へ給料債権の売却の承諾を受け、給料日に勤務先から買取業者へ賃金を支払う必要があるから。この仕組みは、直接払いの原則に大きく反します。3社間ファクタリングを選択できない時点で、怪しいサービスと言わざるを得ません。
通常のファクタリングは貸金業に該当しないため、貸金業登録をする必要はありません。しかし、給料ファクタリングは、ファクタリングを謳ってはいるものの、その本質は貸金業となります。そのため、給料ファクタリングを提供する業者は、財務局または都道府県知事で貸金業登録をしなければなりません。
しかし、給料ファクタリングを提供している業者の多くは、貸金業登録をしていません。貸金業登録をしていない業者が貸金業を行っていれば、当然違法行為となるでしょう。
貸金業を行う際には、貸金業法や利息制限法を守らなければなりません。利息制限法とは「借入時に発生する利息を年利20%以上にすることを禁じる」という法律です。通常のファクタリングは、貸金業ではないため、利息制限法は適用しません。対し、給料ファクタリングは貸金業に該当するサービスとなります。そのため、年利20%以下を守りながら取引を行わなければならないのです。
給与ファクタリングでは、一般的に給料債権額の10%〜30%の手数料が発生します。これは、年利換算すると120%〜360%という超高金利であり、利息制限法の制限を大幅に超過するものとなります。つまり、給料ファクタリングは、利息制限法に反していることが多く、違法性が高いと言わざるを得ないのです。
給料ファクタリングは、違法性が高い取引であり、過去にはいくつかの逮捕事例もあります。ここでは、給料ファクタリング全国初の逮捕事例を紹介します。
「給料を支給日前に受け取れる」などと謳い無登録で金を貸し付けたとして、大阪府警生活経済課は29日、コンサルタント会社「SONマネジメント」(東京都)の社員、岩田俊一容疑者(29)=山形市=ら男女4人を貸金業法違反(無登経営業)の疑いで逮捕した。
府警によると「給料ファクタリング」と呼ばれる新たな手口で、摘発は全国初。
(中略)
府警は、同社が買い取り額から差し引く形で受け取った手数料が、実質的な利息に当たると判断。
年利換算すると、630〜1620%で法定上限(年利15〜20%)を大幅に上回るといい、出資法違反容疑でも調べる。
給料ファクタリングを巡っては、強引な取り立てなどによる被害が相次ぎ、金融庁は3月に「貸金業に当たる」との見解を公表していた。
(引用:日経新聞「「給料ファクタリング」初摘発 業者の男女4人逮捕」)
給料ファクタリングは、違法性が高く非常に危険な取引です。しかし、給料ファクタリング全例が違法というわけではありません。
「貸金業登録」をしていて、「金利換算して20%以下の手数料」を設定している業者であれば、違法取引にはなりません。給料ファクタリングは利用しないに越したことはありませんが、やむを得ず利用する場合は「貸金業法登録の有無」と「金利換算20%以下の手数料」である点は、必ず確認するようにしてください。
なお、1ヶ月先の給料債権を買い取ってもらう際には、手数料1.6%未満でなければ年利換算20%を超えてしまいます。1.6%未満の手数料で利用できる業者であれば、法に触れる心配はほぼないでしょう。
給料ファクタリングは「ファクタリング」と称してはいるものの、その実施は貸金業となります。貸金業である以上、貸金業登録をしたり、利息制限法の範囲内の手数料(年利20%未満)設定をしたりしなければなりません。「貸金業登録をしていない」もしくは「金利換算20%以上の手数料を設定している」どちらか一方にでも該当している場合、違法行為となります。複数の逮捕事例がある取引なので、利用しないことをおすすめします。